大判例

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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1390号 判決

控訴人

藤田興産株式会社

右代表者

藤田辰雄

右訴訟代理人

山口周吉

被控訴人

岡邨正勝

林隆子

右両名訴訟代理人

荻矢頼雄

西川道夫

山本恵一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  主張

次のように付加、訂正するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表四行目の「岡邨一男」の次に「(以下「岡邨」という)」を、六行目の「安田季之助」の次に(以下「安田」という)」を、裏三行目の「向陽ビル株式会社」の次に(以下「向陽ビル(株)」という)」を各付加する。

二  同五枚目表一行目の「日本相互土地」の次に「、以下「日本相互土地(株)」という」を、二行目の「建工舎」の次に「(株)図南」という」を、同行の「竹田延俊」の次に「(以下「竹田」という)」を、三行目の「人見正」の次に「(以下「人見」という)」を、九行目の「二一日に」の次に「原判決主文第二項表示のとおり」を各付加し、裏三行目の「継利」を「権利」に訂正する。

三  同六枚目表八行目の「書証」を「調書」に、同七枚目表六行目の「明らかに争わない。」を「答弁しない。」に各訂正する。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一〈証拠〉によると、請求原因事実を認めるに十分であり、他にこれに反する証拠は存しない。(編注:後掲、原判決「請求原因」参照)

二ところで、強制執行の目的物に対する第三者異議の訴えは、右目的物に関する第三者の所有権その他譲渡又は引渡しを妨げる権利の行使を阻害する強制執行の排除を目的とするものであるから、第三者の権利の目的と執行の目的物とは必ずしも一致することを要するものではなく、民事調停法一六条、民事訴訟法二〇三条、二〇一条により目的物の譲受人(承継人)である相手方に対抗できる執行力のある債務名義を有する債権者は、右債務名義に基づき、目的物に対する相手方の仮処分の執行に対し第三者異議の訴えを提起して右仮処分執行の不許を求めることができるものと解するのが相当である。

三これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件建物の所有権を譲り受けた承継人として、被控訴人主張の調停事件の執行力ある調停調書の効力を受けることを免れない控訴人が、本件建物に対してなした本件各仮処分の執行は、右調停調書正本に基づく本件建物の登記名義人に対する収去命令(授権決定)の実行を阻害する強制執行にほかならないから、その不許を求める被控訴人らの本件異議は、正当として是認すべきである。

四よつて、被控訴人らの請求を認容した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤野岩雄 裁判官仲江利政 裁判官大石貢二)

〈参照・原判決「請求原因」〉

第二 当事者の主張

一 (原告ら)

(一) 原告らの建物収去土地明渡請求権

原告らは、別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という)の所有者(共有者)であり、右土地の地上建物である別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件建物という)の所有者に対し、右建物を収去し本件土地を明渡すべきことを求める権利を有するものである。原告らが右権利を取得するに至つた経緯は、次のとおりである。

1 本件土地は、もと原告らの父である訴外岡邨一男が所有していた土地であり、その地上建物である本件建物は、もと訴外安田季之助が所有していた建物である。

2 しかるところ、昭和三八年一〇月一二日、訴外岡邨とその当時本件建物の所有者であつた訴外安田との間で、大阪簡易裁判所昭和三七年(ユ)第六二号土地賃借権確認調停事件において「訴外安田は、訴外岡邨に対し、昭和四三年一〇月一一日限り本件建物を収去し本件土地を明渡す」旨の調停が成立した。

3 ところが、その後、本件建物の所有権は、昭和四六年二月二日競落により訴外大倉英也へ、次いで、同年六月一八日売買により訴外向陽ビル株式会社へと順次移転され、訴外大倉に対しては同月二六日付で、訴外向陽ビル(株)に対しては同年七月三日付で、それぞれその旨の所有権移転登記がなされた。

4 そこで、訴外岡邨は、昭和五〇年、本件建物の所有者になつていた訴外向陽ビル(株)を相手方として、大阪簡易裁判所に前記調停事件の執行力ある調停調書正本に基づく本件建物の収去命令及び建物収去費用支払命令の申請(昭和五〇年(サ)第二八七四号、同第二八七五号事件)をした。

5 ところが、訴外岡邨が右申請事件の係属中である昭和五二年一月五日に死亡したため、その相続人らが協議の結果、本件土地の所有権は、原告岡邨が三五万三〇九〇分の一六万一八八八、原告林が三五万三〇九〇分の一九万一二〇二の割合で共同相続することになり(昭和五三年三月一七日その旨の所有権移転登記完了)、右申請事件も原告両名において承継した。

6 そして、原告両名は、昭和五六年三月三一日、右申請事件において「原告らの申立を受けた大阪地方裁判所執行官は訴外安田承継人訴外向陽ビル(株)の費用をもつて本件建物を収去できる」旨の授権決定を得た。

(二) 被告による本件建物に対しての仮処分の執行

1 ところが、一方、被告は、昭和五一年四月三〇日、大阪地方裁判所に対し、被告が昭和五〇年一月一〇日に訴外向陽ビル(株)から本件建物を買受けたことを理由に、訴外向陽ビル(株)を相手方として所有権に基づく本件建物の処分禁止及び占有移転禁止の仮処分申請をなし(同庁昭和五一年(ヨ)第一四一一号不動産仮処分事件)、同年五月四日その旨の決定を得、同日本件建物につき別紙登記目録記載の登記を了しこれを執行した(なお、右事件における占有移転禁止の処分は、当時、既に訴外向陽ビル(株)以外のものが本件建物を占有していたため、執行されなかつた)。

2 そこで、被告は、昭和五一年五月二六日、改めて右当時本件建物を占有していた訴外日本相互土地株式会社(現商号株式会社日本相互土地)、同株式会社図南(現商号株式会社建工舎)、同竹田延俊、同人見正を相手方として、大阪地方裁判所に執行官保管、現状維持、占有移転禁止の仮処分申請をなし(同庁昭和五一年(ヨ)第一六八三号不動産仮処分事件)、同年六月一四日その旨の請求の趣旨記載のとおりの仮処分決定を得、訴外日本相互土地(株)、同(株)図南、同人見に対する関係では同月一七日に、訴外竹田に対する関係では同月二一日にそれぞれその執行をした。

(三) 被告の仮処分執行による原告らの権利行使の妨害

1 被告が執行した前記各仮処分の目的物は本件建物であり、右仮処分事件について第三者たる立場にある原告らは、その執行の目的物である本件建物について、直接、所有権その他目的物の譲渡、引渡を妨げる権利を有するものではない。

2 しかしながら、執行の目的物に対する第三者異議の訴は、強制執行の存在が第三者の所有権その他の物権ないしは執行債権者に対抗しうるその他の権利を行使することに対し妨害となつている場合に、その排除を求めることを目的とするものと解すべきであるから、右の訴は、強制執行の存する場合にその強制執行が第三者の右のような権利の行使の妨害となつている場合に広く認められるべきであり、そのような場合である以上、第三者が当該執行の目的物に対し、直接、所有権その他目的物の譲渡、引渡を妨げる権利を有することは必ずしも必要ではないと解するのが、右第三者異議の訴を認めた法意に最も適合するというべきである。

3 しかるところ、原告らは、前記のとおり本件土地の前所有者訴外岡邨を相続してその所有者(共有者)となつたものであり、前記調停成立後にその地上建物である本件建物を譲受けた者に対しては、右調停調書に基づく執行力によりその収去と本件土地の明渡しを請求しうる権能を有するものであり、現に登記簿上その所有者となつている訴外向陽ビル(株)に対し建物収去の授権決定を得ているものである。そして、もし、仮に、被告がその主張のごとく訴外向陽ビル(株)から本件建物を譲受けたものであるとしても、被告は前記調停成立後の特定承継人として前記調停調書の執行力を受けるべき筋合のものであり、原告らは被告に対して本件建物の収去を請求する権利を有するものである。

4 ところが、被告が前記請求の趣旨第一項記載の仮処分執行をした結果、原告らは、訴外向陽ビル(株)による本件建物収去の任意履行を期待出来なくなつたのはもちろん、その強制執行も困難となり、また、前記執行官保管の仮処分執行によつても本件建物収去の任意履行ないし強制執行は不可能になつている。被告の右各仮処分の執行が原告らの本件建物収去土地明渡請求権の行使の妨げとなつていることは明らかである。

(四) 結論

よつて、原告らは、前記授権決定に基づく本件建物収去の執行をなすため、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

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